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ゲリラレストラン 好奇心の祝宴
展覧会「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム」

11 12 13 October 2014
Venue : Gallery 6, 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa
Collaborator : The University Museum, the University of Tokyo
Produce : 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa
Music : Tomomi Oda
Photo : Hiraku Ikeda
Movie Director : Seiichi Hishikawa
Director of Movie Photography : Seiichi Hishikawa, Yutaka Obara, Kazuhiro Morisaki
Film Production : DRAWING AND MANUAL
Movie Production : 21st Century Museum of Contemporary Art Kanazawa

金沢21世紀美術館の展示室で3日間行われたゲリラレストラン

10月9日に開館10周年を迎えた金沢21世紀美術館。その、展示空間の一室で開店したゲリラレストラン。
10周年の日を単なるセレモニーで終わらせるのではなく、その「祝宴」をあじわって感じてもらいたいというのが、本プログラムのそもそもの始まりだった。金沢21世紀美術館らしい「祝宴」は、あじわいについて感じ、考えるとともに、美術館の原点であるミュージアムについても考えるものにしたい。それは、ミュージアムの原点である<驚異の部屋>であじわうという発想へとつながっていった。わずか10日間、祝宴の期間に繰り広げられるあじわいのプログラムは、東京大学総合研究博物館の西野嘉章館長が展示ディレクション行った学術標本が並ぶ7つの展示室で開催された。東京大学総合研究博物館の資料だけでなく、石川県立自然史資料館が所蔵する金沢大学の標本をベースとする資料とともにフードクリエイションの作品も並び、密度のある空間が生み出された。
おいしさでもない、空腹を満たすでもない、あらたな食の価値をもたらす感情のテイストをフルコースであじわうゲリラレストランはこの「祝宴」のクライマックスとなった。

『なまこを最初に食べた人は凄い。フグを食べて命を落とした人はなんてクールなんだろうと思う。私が憧れる彼らに共通するのは、本能的な欲望としての「好奇心」。そして、私たちの誰もが、時にコントロールしがたいこの欲望を持っている。そう、隠し持っている。私たちは、毎日なにかを食べている。たべることが生きることに直結するならば、あじわうことは進化に繋がる。先人達が、感覚を研ぎすませて全神経を集中し、なにかを口に入れ、咀嚼することで進化してきた今を、さらに私たちは深くあじわうことができる。美しいもの、奇妙なもの、鮮やかなもの、光るもの、いい匂いのするもの、そして、見たことのないもの、あじわったことのないもの。日常に潜む自然の驚異には到底かなわない。そんな驚異をあじわうのが「好奇心のあじわい」です。美術館の中に現れる「驚異の部屋」で感覚を研ぎすませ、全神経を集中し、こころゆくまで、好奇心のあじわいをお召し上がりください。』
諏訪 綾子

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「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム」記録集より(金沢21世紀美術館キュレーター:高橋律子)
■フードクリエイションと驚異の部屋
 フードクリエイションの諏訪綾子は、2008 年に当館デザインギャラリーで「食欲のデザイン展 感覚であじわう感情のテイスト」を開催した後、国内はもちろんフランス、ドイツ、シンガポール、香港等、海外での活躍がめざましい。おいしさや健康を求めるでもない、フードクリエイションの「食」は、感覚を呼び覚ませ、思考させるあじわいである。
 東京大学総合研究博物館の西野嘉章館長の名前が出てきたのは、諏訪との具体化に向けた最初の打ち合わせのときだった。諏訪がふと、新しくKITTE内に誕生した博物館、インターメディアテクについて話題にした。東大の西野館長が作りだす「驚異の部屋」にすごく魅かれるという。博物誌の画像に関心を持つ諏訪は、これまで海外の自然史博物館なども調査し、作品のイメージに反映させてきた。そして、私自身、諏訪の発言によって「驚異の部屋」はこのプログラムの重要なテーマであることに気づかされた。博物館の原点とされる「驚異の部屋」とは、15世紀から18世紀頃にかけて好奇心のおもむくままに自然物や人工物が陳列された空間である。
 この10年、「アート」の枠組みは大きく変化している。マンガやファッションが展示されることが普通になり、パフォーミングアーツも浸透しつつある。宇宙空間もやがてアートの場になっていくであろう。アートの可能性を追求し、時代を見つめる視点は常に重要である。しかし、ミュージアムにおいて、モノをモノとして向き合う機会はそれ以上に重要ではないだろうか。あえて最も原初的な感覚「味覚」をテーマに現代美術を見渡すときに、純粋な「表現」としていったん抽出してみる。それこそが、次の10年の美術館を支える価値となるはずだ。
 「好奇心の祝宴」では、西野嘉章館長のディレクションのもと、6つの展示室に驚異の部屋が作り出された。西野館長は、「驚異の部屋には密度が必要だが、これほど天井の高いホワイトキューブの空間に密度をもたせることは困難だ。ならば、ホワイトキューブを活かした驚異の部屋を生み出すべきだ」と語った。展示は学術情報ではなくビジュアルによって配置された剥製類や、展示室内に敷かれたレッドカーペットなど、博物館としても新しい感覚のものであったし、作品でないものが堂々と展示される美術館の光景は斬新なものであった。
 標本とともに、諏訪の作品も紛れ込むような形で展示された。そして、「好奇心のテイスティング」「ゲリラレストラン」のキャストのイメージはキメラだ。諏訪のディレクションにより湛然なメイクに作りこまれた半獣が展示室を練り歩き、その後を好奇心にかられた来場者たちがついてまわる。来場者もまた展示の一部になるという構造である。標本と美術作品、展示される資料と展示を見る人、博物館と美術館、あらゆる境界を曖昧となったとき、個人の内部に潜む「好奇心」は浮き彫りになったであろうか。「好奇心の祝宴」の企てが成功したかどうかは、居合わせた個々人のなかにある。

■美術館における「あじわい」のプログラム
 今回、約半年という長期に渡り展示室内であじわいのプログラムを開催することになったとき、まずは食べ物を展示室でどのように扱うかが大きな課題であった。そこで思い浮かべたのは、通常美術館展示室で使用されるガラスケースである。食材をあじわう人がガラスケース内に入り、そこであじわう行為が完結すれば、リスクは激減するはずである。幸いにもシンガポール在住のデザイナー、NICK YEN氏がデザインするガラスに囲まれた鉄骨のポータブルブース「ELEMENT」を「好奇心をあじわう小部屋」として使わせていただけることとなり、このアイディアは実現することとなった.。(実際は、消防法の関係で3m高の天井部は開放となった。)
 「好奇心をあじわう小部屋」は週末1時間だけ扉が開かれる。実際にあじわえるのはこの1時間だけである。通常の展示では、アーカイブされた「好奇心の食材」により、想像のあじわいを促す。テイストハンティングにより集められた「好奇心の食材」-食べられないかも知れないが、あじわってみたいもの-は、東京大学総合研究博物館から借用した、今ではもう使われなくなったガラス製の薬瓶にホワイトリカーに浸けて保存し、並べた。液体につけたのは、多数を占める草花等の内部にいる虫を外部に出さないという対策でもある。また蓋のないビーカー等にはラップフィルムで覆った。
 「好奇心の祝宴」の会期がわずか10日間としたのも、あじわうプログラムを実施する上での配慮である。プログラムは、「あじわいの体験」に加え、「好奇心のテイスティング」と「ゲリラレストラン」を実施したが、使用する部屋を2部屋に限定し、その部屋の空調吹き出し口を塞ぐことで、空調回路を経由して被害が拡大しないようにした。
 これらの対策は決して万全とは言えないかも知れない。しかし、美術館で新たな試みに挑戦していくとき、問題の本質に立ち返り予防していくことは、今後さらに多様化する現代美術の表現と向き合う上で必要になってくる。美術館としてもあらゆる可能性を閉ざさずにいるべきだろう。

■テイストハンターとともに
 当初、諏訪はボランティア・メンバーと作品をつくりあげていくことに戸惑っていた。諏訪の美観が徹底されつくりあげられたあじわいの世界に、他の価値観が入り込む余地はないように思えた。ただ、キュレーターである私は、諏訪にボランティア・メンバーと関わっていくことの可能性に確信のようなものをもっていた。だからこそ実現したと感じている。
 それは2008年の経験が大きい。デザインギャラリーで開催された「食欲のデザイン展」では、諏訪の出身大学でもある金沢美術工芸大学の現役学生が多数、ボランティアとして参加してくれた。ゲリラレストランが生み出される現場で、諏訪は初対面の学生たちのモチベーションを引き出しながら自身の世界感を作りだしていた。また、ゲリラレストランのパフォーマーの多くが諏訪が直感を頼りに声かけをした人たちである。初対面のひとたちをも虜にしてしまうのは、作品だけでなく、諏訪本人がもっている個性によるところも大きい。
 その風貌から都会育ちのように見える諏訪であるが、自然豊かな石川県羽咋市で生まれ育っている。海も山も近いという恵まれた環境のなかで、諏訪は小学校の高学年になっても、くらげや蟹、草花といった自然の素材を使って「料理ごっこ」をしていて、それが今の活動につながっていると言う。諏訪の穏やかさと鋭さが共存する個性もまた能登の自然が生み出したものに違いない。
 2007年より続く「若者夢チャレンジプログラム」は18歳から39歳を対象にプログラム・メンバーを募り、活動を行った。今年度の「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム」では、「若者」という枠を外し、20代から70代までの幅広い年齢層の方に参加してもらうこととなった。諏訪は自身の世界観は徹底して守るが、その世界をともにつくりあげる楽しさを伝えるのに非常に率直である。テイストハンティングでは、太古の人間が好奇心をかられてあじわった感覚をよみがえらせてくれた。ゲリラレストランでは、諏訪は「この世界の住人になってください」と投げかけた。異空間の案内人になることは、観客として参加する以上に楽しいことだった。
 今回、特徴的だったのは、30代、40代の参加が多かったことだろう。仕事で忙しい世代が、貴重な休日を使ってプログラムに参加し続けてくれたのは、フードクリエイションの魅力もさることながら、「食」という身近なテーマであったからではないかと思う。参加してくれたメンバーたちの専門性も活かし、プログラムはさらに進展していった。あるハンターは、「祝宴」のフードインスタレーションに使用する約2000枚もの皿の提供を促し、またあるハンターは、自身の所属する通信制の大学でのアウトリーチプログラムを実現へと導いた。これからもハンターたちの活動は展開し進展しそうな気配を見せている。
 諏訪自身、テイストハンターとの活動を通して大きな気づきがあったという。担当学芸員である私もまたハンターの方々と関わりによって大きな学びを得た。アーティストの世界感を共有し、共犯者となることによって、作品の理解はより深まる。それは、活動に参加するという身体的行為を通じて、コンセプトを感覚的に理解できるのではないかと思う。やがてそれは、そのひと自身の感覚として熟成され、異なる表現、異なる形式で外ににじみ出ていくにちがいない。「コンセプトをあじわう」というフードクリエイションの活動は、まさにそれをリアルな体験としてつなげていると言えるのではないか。

展示室から街中へと広がっていった「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム」は、金沢の「食」を象徴する近江町市場でのゲリラレストランという形で活動を終える。それはまた次の活動への始まりであるような気がしてならない。
(金沢21世紀美術館キュレーター 高橋律子)